帰国・五合庵定住以前

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帰国
 良寛が越後に帰国した年は、従来、寛政九年(一七九七)には国上山の五合庵に住んでいたことを示す原田鵲斎の漢詩があることから、寛政九年までには帰国していたと考えられていました。おそらく父以南が寛政七年(一七九五)京都で入水自殺したため、その翌年の寛政八年(一七九六)良寛三十九歳の年に帰国したのではないかとの説がありました。
 しかし、近年では、寛政四年(一七九二)良寛三十五歳の年の春だったとの説が唱えられています。
 その根拠は、橘崑崙(こんろん)の『北越奇談』に橘崑崙の兄橘彦山が帰国後の良寛の庵を訪ねたという記述がありますが、橘彦山は寛政五年(一七九三)に死亡していることから、帰国は寛政五年以前であったと思われることや、
 良寛の漢詩の内容から、父が自殺した寛政七年(一七九五)にはすでに良寛は越後にいて円明院で父の法要を営んでいたと思われることなどです。
 なお、帰国の前後に詠んだ旅の歌がたくさんあります。                         津の国の 高野の奥の 古寺に                                     杉のしづくを 聞きあかしつ

郷本空庵
 越後に帰国した良寛は、出雲崎に立ち寄ることなく、最初に寺泊の郷本(ごうもと)の空庵に半年ほど住んでいました。このことは橘崑崙(こんろん)の『北越奇談』に記事があります。
 この記事から、良寛は近村を托鉢し、その日の食に足るときはすなわち帰り、食があまる時は乞食鳥獣に分かち与えるような生活をしていたようです。
 その後も良寛は出雲崎近辺の各地を転々として暮らしたり、諸国行脚を行っていたものと思われます。
 越後に帰国した頃に詠んだと思われる歌があります。                          越しに来て まだこしなれぬ われなれや                                  うたて寒さの 肌にせちなる                                         うたて…ますますひどい せちなる…はなはだしい

帰国後
 越後に帰国してから、五合庵に定住するまでの良寛の足取りはよくわかっていません。越後の各地を拠点にしつつも、諸国行脚を行っていた可能性があります。
 良寛は会津柳津や米沢等の東北地方も旅していますが、そのことを示す漢詩は五合庵時代までには作られていることなどから、良寛が六十代の乙子神社草庵時代に東北行脚を行った可能性は低く、あるいは帰国後から五合庵定住までの間であったかもしれません。

父の死
 良寛の父以南は俳諧に打ち込み、全国各地に旅に出るようになりました。寛政五年(一七九三)には滞在していた直江津から由之に手紙を出した後、京都に向かいました。京都滞在中の寛政七年(一七九五)七月、以南は桂川で入水し自殺しました。原因はよく分かっていませんが、京都では気脚(かっけ)にかかっており、生きがいであった旅ができなくなったことが影響したのかもしれません。
 以南の辞世の歌があります。                                      蘇迷盧(そめいろ)の 山を形見に 立てぬれば                              わが亡き跡は いづら昔ぞ                                         蘇迷盧の山…須弥山                                                        

 また以南の辞世の句もあります。
夜の霜 身のなる果てや つたよりも                                    つたよりも…ずたずたに刻まれたような寄り藻

 父の死後、良寛が詠んだ俳句があります。                                 蘇迷盧の 音信(おとづれ)告げよ 夜の雁(かり)

 良寛は次の父の俳句の遺墨の余白に次の歌を書き加え、大切に所持していました。                 朝霧に 一段低し 合歓(ねむ)の花 (以南)
                           水茎の 跡も涙に かすみけり                                      在(あ)りし昔の ことを思ひて (良寛)                                 水茎の…筆の