文政十二年

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 良寛さまと貞心尼 │ 出会い(文政十年) │ 文政十一年 │文政十二年 │ 文政十三年・天保元年 │ 遷化(天保二年) │ 貞心尼の後半生 │

文政十二年(一八二九) 良寛七十二歳、貞心尼三十二歳

蓮の花の留守番

  ある夏の頃、島崎の庵室をお訪ねしたところ、よそへ外出されたのだろう、お師匠様の姿は見えません。ただ花瓶に蓮の花を生けてあり、美しく咲いていたので
来て見れば 人こそ見えね 庵(いお)守(も)りて                                 匂ふ蓮(はちす)の 花の尊さ (貞心尼)

    御返歌
御饗(みあえ)する ものこそなけれ 小瓶(こがめ)なる                               蓮の花を 見つつしのばせ (良寛)                                         饗する…おもてなしする

 三条大地震の騒ぎも少しは落ち着いた夏の頃、貞心尼は良寛さまの庵室をお訪ねしましたが、良寛さまは外出して不在でした。貞心尼は蓮の花の歌を木村家に託したのでしょう。後で、その歌への良寛さまの返歌が貞心尼に届けられたようです。

五回目の相見

 秋、由之が良寛さまに褥(しとね)を贈る唱和の歌があります。おそらく貞心尼が与板の由之から預かって島崎の良寛さまにお届けしたのではないでしょうか。その時にも良寛さまは音韻の話をされたのでしょう。

  五韻を詠まれて
くさぐさの 綾(あや)織(おり)いだす 四十八(よそや)文字 
声と韻(ひび)きを 経緯(たてぬき)にして (良寛)                                   くさぐさの…いろいろな模様の 四十八文字…いろはの四十八文字  声と韻きを… 声という子音とひびきという母音  経緯にして…縦横に組み合わせ